第3章 八雲
「……じゃあ、頼み事をしてもいいかな」
「あ、あぁ、もちろんだ」
自分の肩に触れる。この肩ではすぐに取り掛かるのが難しい。目が覚めてから、頭の中にあるのは荒れ果てていた畑だった。
「畑を整えたいんだ」
「…………は?」
「ふっ、」
歌仙は「何言ってるんだ?」と言わんばかりに、俺を凝視する。隣に並んだ鶯丸が、笑ったのが分かった。
「でも、この肩じゃ難しいだろ」
「……はぁ、」
「畑について詳しいわけでもないからさぁ、困っていたところなんだ」
俺の言っていることが未だ理解できないようで、考え込むように眉が寄っている。歌仙のそれを指で解してやりたくなって、まだその時ではないかと我慢する。
「手伝ってくれないか?畑仕事」
ん?と出来るだけ優しく尋ねてみる。歌仙は少しの沈黙の後、難しい顔をしたまま伺うように尋ねた。
「そんなことでいいのかい?」
「舐めるなよ、結構大変だからな」
ぶっきらぼうに返せば、ようやく歌仙の顔から強張りが解ける。
「そう、だね。そうだった。確かに、畑仕事は大変だったな」
呟いて、何かを思い出しているようだった。この本丸に来て初めて見る歌仙の微笑みに、ほっと安心する。
「分かった。手伝おう。人手が必要なら、他にも声をかけてみるよ。手伝ってくれる保障はないけれどね」
「ありがとう。助かるよ。…ちなみに、鶯丸は?」
「ん、俺か?年寄りは労わるもんだと習わなかったか?」
手伝う気はないらしい。大して期待はしていなかったので、気にはとめない。それよりも気になることが一つあった。