第3章 八雲
重い体を起き上がらせ、備え付けの洗面所へ。最低限の身支度をして、襖を開けた。
「目が覚めたんだね」
歌仙は俺の姿を見るなり、ほっと胸を撫で下ろした。そういう、優しさを隠せていないところが、何とも生き辛そうだなんて思う。
「あぁ、気にさせてしまったみたいで悪いな」
「いや、今回に関してはこちらの落ち度だ。何と詫びればいいか…」
こんのすけの言っていた通り、歌仙の顔色は悪い。過去の経験から、これから下される言葉に怯えているのだろう。
「いい。仕方ないさ」
「……っ、罰は僕が受ける。どうか、あの子のことは見逃して欲しい」
仕方ない。いい。そう言っているのに、歌仙は依然青い顔のまま頭を垂れた。このままでは土下座でもしそうな勢いだ。
どうしたもんか。困って、鶯丸の方を見るも肩を竦めるばかりである。
「歌仙、顔を上げてくれ。そんな風に頭を下げられても困る」
「しかし…っ!」
「審神者がこう言っているんだ。顔を上げろ、歌仙」
鶯丸の言葉に、歌仙は恐る恐る顔を上げた。一見どうとなく見えても、こういう、ふとしたやりとりの中に見える根っこに植え付けられた恐怖心に胸が痛む。
心にも、身体にも、過去が染みついてしまっている。どうすれば、そっとその染みを浮かしてあげられるんだろう。どうにかしてあげたいなと思う。けれど、どうにかすることの難しさも、知っている。