第3章 八雲
「話を戻そう。契約のことについてなんだが」
「あぁ、そのことか」
鶯丸が思い出したように言った。
「安心していい。ちゃんと機能しているさ」
「……つまり、罰が下ったと?」
「そういう約束だったからな」
なんでもないように、鶯丸は続ける。
「俺も見るまでは半信半疑だったんだが…、どうやら契約者の俺ではなく、破った本人が罰を受けるようになっているみたいだ」
「なるほど。…なら、あの小夜左文字が?」
「そうだ。君の怪我の程度に合わせてだろうが、一時期的に神格が下がっている」
鶯丸の言葉に、息をのむ。「罰」というくらいだ。ましてや、付喪神といえど神自身が自らもちかけた契約。それなりだろうとは思っていたが、まさか神格に関わるとは思っていなかった。
「一時的に、ということは、戻るんだな?」
「石切丸はそう言っていたな」
「そうか…」
ならば安心である。結界を張っていなかった手前、気まずい気持ちを持て余す。自分の身を犠牲にすることは、誰かを犠牲にすることだ。いつしか言われた言葉を思い出した。
「審神者、」
少し考えていれば、歌仙に呼ばれて顔を向ける。
「謝罪はもちろん、小夜からもさせるつもりだ」
いらない、とは言わなかった。これは、彼らが前に進むためにも必要なのだろうと、何となく今、思ったからだ。
「けれど、先に僕から言わせてくれ」
そう言う歌仙は、背筋をまっすぐ伸ばし、意思の籠った瞳で俺を見つめた。
「本当に、すまなかった」