第3章 八雲
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目が覚めると、辺りは明るかった。どうやら気を失っていたらしい。
状況がいまいち掴めず体を起こすと、足元で寝ていたこんのすけに気付く。刺された左肩はまだ痛むが、想像よりはマシだ。心配していた穢れは祓われたのか。自分で祓ったのか。その辺りの記憶が曖昧である。
『目が覚めたか』
眠っている間は静かだった声が、しんと沁みるよう頭で響いた。
眠っているこんのすけを起こさないようにと、声には出さずに返事をする。
(うん。最後の方、あんま覚えてないんだけど、どうなった?)
『……あの付喪神の穢れを払って、気絶した。そこの管狐ではあまり役に立たんかったのでな。少し身体を借りたぞ』
(あー……、まじか、)
『付喪神の方は、無事だ。お前より遥かにぴんぴんしとるぞ』
(ならよかった)
どうやら小夜左文字は無事らしい。穢れも払えているならば、あとはもう、心の傷をゆっくりと癒していけばいいだろう。
ほう、と安堵の息を吐けば、頭の中で怒鳴られた。
『いいわけないだろう、馬鹿者が!』
(うる…さ……)
キーーーン、と響いて頭痛がする。思わず耳を塞ぐも、この声が耳から聞こえているわけではないので意味はなさない。
『なぜ結界を張らん』
(なぜって…、そっちの方が警戒させなくてすむかなって…)
『最初からやつは殺気だってた。挙句あれだけ穢れていたんだ。正常な思考などできんかったろう』
(それはそうかもだけど…)
『お前は時々、どんでもない馬鹿だな』
もうこうなれば無視である。頭のなかでくどくどと続く説教を無視して、足元で体を丸め眠っているこんのすけに触れる。