第1章 暁闇
こんのすけがこちらです、と先を歩き出す。俺はこんのすけの横に並びながら、あたりを探った。
離れにいくにはどうしても本邸を通らなければならないらしい。目に入るのは血痕や黒い染みといったものから、カビや埃といったものまで、とにかくここがいかに荒れているかそして廃れているかが窺い知れるものばかりだった。
鼻をつく血の臭いは、嗅ぎ慣れていないものならば気分を悪くするだろうし、歩くたびに軋む廊下もどうも心臓に悪い。
そして、こちらを探るかのような気配がいくつか。
この空間に足を踏み入れた時点で、おそらく彼方には知られているだろうとは思っていたが、探りを入れたいのは向こうも同じらしい。視線の位置からして、子供の姿をしたものが二、三。それから、
「………」
「審神者さま?」
「いや……」
足をとめ、あたりを一周ぐるりと見回す。
気配を隠すのが上手いな。でもこれは、俺からというより…。
神のそれとは違う。うまく探れないのが、その何かの認識を阻害する。しかし、神でないのならばそれ以外の何か。元神だったものか、あるいは。
どちらにせよ、今のところ害はなさそうだ。しばらく様子見で大丈夫そうではあるな。
「なんでもない。離れへ行こう」
再び案内を促せば、探っていた視線は四方に散った。事前に教わった情報では、子供の姿をしたものは短刀であったか。なるほど、精神は象った姿形に、僅かに引っ張られるというわけか。