第2章 幽冥
「まって」
今度こそ歌仙はあからさまに顔を顰めた。
「何だい?」
それでも振り払ったり、無視したりしないあたりが本当何というか。できた刀だなぁと思う。
「手入れをさせてくれないか」
歌仙の瞳を見て尋ねれば、歌仙はわずかに瞠目した。その瞳がなんだか無防備で、掴んでいた手を離す。
「……構わないが…、…何故僕なのか聞いても?」
そこに探る色はなくて、それが単純な疑問であることがわかる。俺は歌仙の掌を見つめて答えた。
「昨日、広間で見た時から気になってたんだ。痛むだろう」
「あぁ…、確かにあの場にいた者の中では僕が一番傷が深いからね。君は気になったのか。けれど、痛みは感じないんだ。もう慣れてしまった」
ふ、と諦めたように歌仙が微笑する。その言葉が胸に突っかかって、嘗て俺にそうしてくれた人の言動をなぞる。
「…痛みに慣れないでくれ」
歌仙は首を振る。
「僕たちは刀だ。変なことを言う」
「それでも、だ。今は人の身を得てる」
「慣れたくて、慣れたわけじゃない。そうした方が楽だった。防衛反応さ」
返された言葉に、ぐうの音も出ない。当たり前だ。
「手入れは受けよう。終わったら声をかけてくれ。広間にいる」
歌仙はそう言うと、この場を離れた。歌仙の思いはどうであれ、手入れを受けてくれることに安心する。