第2章 幽冥
『あまり人の血に触れるなよ』
不意に脳内で声が響く。それはもう、何年も俺の中にいる者の声だった。
「分かってる」
いつもの癖でつい、声に出して返事をしてしまい慌てて口を噤む。見られたところで、構わないのだが…、いや、構うのか?どうなんだろう、その辺。付喪神といえど神様なわけであるし、本当は領域内にいる事態がまずい気もする。
『抜かせ。格が違うわい』
(それもそうか)
『そも、知ってるだろう』
(昨日の見てたんだ)
『少しな』
そうこうしていると、昨日の広間についた。台所はこの部屋の近くだとこんのすけは言っていたのだが。
「審神者じゃないか」
「うわっ」
果たして中に人はいるのかと探っていれば、突然背後から声をかけられる。振り返れば、そこには鶯丸がいた。
「鶯丸…」
「あぁ。それで、君はここで何を?」
「台所の掃除でもしようかな、と」
「なるほど。その様子だと場所が分からないと言ったところか」
鶯丸はふむ、と手を顎に当て考えるそぶりをした。話し方、声色、仕草、視線。どれをとってもやはり彼からは嫌悪を何一つ読み取れない。