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夜明け

第1章 暁闇



 数分後。ようやく終わり、歌仙兼定は一息つく。ふぅ、と息を吐き出す姿まで様になっている。

「これで終了だ」
「分かっていると思うが、」

 歌仙兼定の声に被せるように、鶴丸国永が発言した。顔を向ければ、嫌悪を多分に含んだ瞳で睨まれる。

「約束は決して違えるなよ、人間」

 そしてそのまま立ち上がり、鶴丸国永は奥の部屋へと消えていった。まぁ、気持ちは分からなくはない。あくまで想像の範囲ではあるが。

「すまないね」

 謝ったのは、歌仙兼定だった。俺は思わず驚いて口を開ける。

「……なんだい、その反応は」
「いや…、……なんで謝るんだ?」

 それは心からの疑問だった。彼からは確かに嫌悪を感じる。なのに、同時に感じるこの矛盾したような感情はなんなんだ。

「確かに僕は人間のことを憎んでいる。けれど、誰彼構わず攻撃的になるには、もう疲れてしまった」

 そう言って、歌仙兼定はため息をついた。視線は足元へ。ぽつりぽつりと語られるものは、確かに本音なのだろう。

「…ここには、重傷を負った刀剣も少なくない。寝たきり目を覚さないものだっている。どう足掻いたって、僕たちの傷は審神者にしか治すことができない。過ぎた干渉は望まないが、手当てはしてもらうつもりだ。何より、君の気配がこちら側により過ぎていて…、」

 そこで歌仙兼定が考え込むように言葉を切った。

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