第7章 晨星落落
「かえせ、返してく、れ」
亡霊は恐ろしく醜い姿をしていた。けれど、そんなもの歌仙にとってはどうでも良かった。自らが穢れることも厭わず、最後の一歩を踏み出し亡霊を抱きしめる。
顔を歪め、歌仙を止めようとする燭台切の手を、今剣が掴んで首を振る。
「返してくれ、返してくれ」
亡霊は、何度も何度も繰り返す。両手を伸ばし何かを求める姿に、刀剣男士たちは何とも言えない気持ちになる。
何を今更。返せとは、一体何を指すのか。奪った命だろうか。なら、奪われてばかりだった自分たちはどうすればいいのだ。怒りがあふれる。膨れ上がる殺気と怒気。
審神者は鶯丸に支えられ、何とか体を起こすので精一杯だった。
「俺の」
不意に、その声は醜くひしゃげたものから、成人男性のそれへと変化していく。同時に、屍を覆っていた酷い匂いを放つ腐敗した肉がぼとぼとと剥がれ落ちていく。
徐々に表れた姿は、いくらかの刀にとっては見覚えのあるものだった。
「俺の、刀たちを」
誰かが息を呑んだ。同時に、先ほどまで場を支配していた殺気や怒気は一瞬にして消散する。
「返してくれ、俺の刀達を」
言葉は徐々に鮮明に。
「俺の、大切な、彼らを」
誰もかれもが、言葉を失った。ごうごうと勢いを増す炎だけが、時間の流れを物語っている。