第7章 晨星落落
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歌仙は、掌にある鈴を見つめる。脳裏に浮かぶのは、この鈴を贈った日のことだった。
決して高価なものなんかじゃない。どこにでもある、ありふれたただの鈴だ。そんなものを、大切にしていたというのか。
返せと、毎夜さまよいながら。
たかが、どこにでもあるような鈴のために。
あんな仕打ちをしておいて。あんな非道なことをしておいて。それでもなお、大切に持っていたというのか。
言葉にできない傷みが歌仙の胸に広がる。
ならば、なぜ。
叫びたくなる。
ならば、なぜ、大切にしてくれなかった。
別に、特別なことなんて何もいらなかった。主、君が優秀だろうと、そうでなかろうと、そんなこと、本当に僕はどうだってよかったんだよ。
仕方ない。そういいながらも、君と過ごす日々は確かに宝物のようだった。大切にしたいと、心の底から思っていた。
どうして。
何度も、何度もなんども。繰り返して、自問自答して、そうして君を憎んで、それでも憎み切れなくて、挙句、こんな鈴を大切にしていたことを今になって知って。
どうしろというんだ、いったい。君は僕をどうしたいんだ。
ざり、と嫌な感じが肌を撫でる。全く別物のようでいて、気づいてしまえばその奥にある懐かしく、随分なじみのある気配に心は何度もかき乱される。