第6章 贖罪
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「今剣」
久しぶりの声に出した名前は、驚くほど舌に馴染んだ。
新しい審神者が来てから、ずっと避けていた。それは歌仙の罪の意識からだった。歌仙だけが、今剣の状態を知っている。歌仙だけが、今剣が行った罪を知っている。
どちらも罪を背負いながら、今日もこうして生きている。辛い現実から目を逸らし、それでも死ぬことなんてできずに、今日を生きている。
歌仙は覚悟を決めた。襖に手をかけ、幾月ぶりかに部屋へと足を踏み出す。
空気は澱み、重い。明かりのない部屋で、真っ赤な血の色をした瞳だけが浮かんでいる。
この部屋はひどく息がしづらい。今剣はもう半分以上堕ちてしまっている。
「歌仙、」
今剣が小さく呼ぶ。その声も、もう判別できないほどひしゃげていた。
この部屋を訪れるのも、気づけば歌仙一振りになっていた。
「手入れを受けてくれないか」
息を吸い、今剣を見つめて言う。
答えは返ってこない。