第1章 暁闇
「では双方ここに血を」
そう言って、墨の入った容器を差し出される。
差し出してきたのは確か歌仙兼定だ。美しい声に、美しい所作佇まい。それに似つかわしくない血の匂いと、着物の間から覗く傷口。決して新しいものではない。
刀剣男士の傷は審神者にしか治せないと聞いた。いつから、その状態なのだろうか。
「何か?」
見過ぎたか。視線を感じた歌仙兼定が、嫌悪を含んだ瞳で尋ねる。
「いや…、針をもらえるか?」
「針……、ああ、傷口を作るのか。少し待っていてくれ。鶯丸は?」
「必要ないさ。刀で十分だ」
「分かった」
歌仙兼定はそう言うと立ち上がり、奥の部屋へと消えた。相も変わらずの緊張感に、いい加減肩が凝ってきた。首を回せば、ゴリと鈍い音がする。
程なくして歌仙兼定が戻ってきた。その手にはプラスチックのケースがあり、そのケースごと渡される。
「これでいいかな?」
「あぁ。ありがとう」
受け取ったケースの中には確かに針が数本。比較的太いものを選び、手に取った。