第1章 暁闇
「では、人の子よ。そちらの条件を呑もう」
「ありがとう。それで、俺への望みはなんだ?」
「そちらが提示するのが二つであれば、こちらから望むことも二つだ。一つ、俺たちは審神者を主とすることはない。二つ、俺たちに命ずることはしない。こんなところか。異論は?」
「分かった。異論はない」
「ならば成立だ。鶯丸」
「ああ、」
鶯丸、と呼ばれた刀剣がこちらへ近づいて、俺の前で腰を下ろす。不思議な空気を纏った付喪神だ。他のものは皆一様に敵意や憎悪、嫌悪感、何かしら負の感情を纏っているのに、鶯丸からはそれらが一切感じられない。
「鶯丸だ。君には俺と約束をしてもらう」
微笑みながらそう言われて、さらには手を差し出される。
「約束…、随分優しい物言いだな」
「その方が君の気も楽だろう。何、とってくいやしない。やり方は?」
「そちらに合わせる。大筋は変わらないんだろう?」
「恐らくな」
少しばかり悩んだ末、差し出された手を握る。触れることに躊躇いがないことに少なからず驚いた。触れた手のひらは程よい力で握られる。刀を握り、振るう。おおよそそれには相応しくないさらりとした美しい手だった。