第5章 雨催い
「……火傷、か?」
呟くように言った言葉に、ようやく納得がいく。なんだ、これを気にしてたのか。
「これ、だよな。ケロイドだよ」
鶯丸が触れた部分。そこは皮膚が盛り上がり、他とは色が違っていた。紛れもなく、火傷の痕だった。
鶯丸は言葉を失い、茫然とそこを見つめている。居心地が悪くなり、無理やりはだけさせられた長襦袢を整える。
「こんなところを、火傷したのか?」
「こんなところって…。まぁ、そりゃあそうなるか。ちなみに背中にもあるぞ」
見られてしまったならやけだ。女の子でもないし、俺自身は傷に対してどうこう思っていない。ただ、見る方はそうでもないだろう。
「何故?」
「なぜって…、踏み込むなぁ」
別にいいんだが、聞いていて気持ちのいい話ではないし、進んで話す内容でもない。渋る俺に、鶯丸は俺の手首を掴んだ。
「教えてくれ。君のことを知りたいんだ」
まっすぐ見つめられ、そう言われてしまえば悪い気はしなかった。燭台切に向けられた殺意。連日の寝不足。ひしひしと迫ってくる呪い。負の感情が無意識のうちに蝕んでいた心に、鶯丸の好意はじんわりと侵食していった。
視線を逸らし、前置きをする。
「聞いていて、気持ちのいい話じゃないぞ」
「構わない」
「人間が、よけい嫌いになるかも」
「君のことは嫌いにならないから大丈夫だ」
そこまではっきり言われてしまえば、もう後には引けない。俺はため息を一つ吐いて、目を逸らした。