第5章 雨催い
燭台切に切られた頬を、鏡で確認する。ぱっくりと傷口が割れ、血が垂れていく。こりゃあ痕が残るな。傷口を抑えて止血を行い、軟膏を塗ったガーゼを当てる。
俺の中でずっと拗ねているやつは、さっきから無言を貫いている。今回、手を出さなかったのはかなりの我慢を強いたはずだ。さすがに労わないとなぁ、と考える。
「うわ、血ついてる」
ぼー、と鏡の前で考えていれば、ふと目に入った血痕。頬を切られたときに滴り落ちたのだろう。着物の合わせ目にはしっかりと血が付いてしまっていた。
「これお気に入りだったんだけどな…」
染み抜きでどうにかなるだろうか。とにかく血を洗い流すには時間が命だ。袴を脱ぎ、着物を脱ぐ。最悪なことに、下の長襦袢にまで血は付いていた。
「まじかぁ…」
袴を適当にかけ、タオルをぬるま湯につける。着物が優先と、濡らしたタオルで血の部分をとんとんと叩いていく。薄くはなったが、うーん、完全に元にとはいかない。そうやって奮闘していると、突如自室の襖があいた。
「うわっ」
「ここにいたのか」
後ろを振り向くと、そこに立っていたのは鶯丸だった。
「鶯丸。どうかしたか?」
「あぁ、いや、少しな」
鶯丸は断りなく部屋へはいると、俺の前に腰を下ろした。