第5章 雨催い
夢を見た。
夢の中で、俺はある男だった。
「はい、これ」
目の前には歌仙。辺りを見渡せば、そこは本丸だった。だが、今とは随分様子が違う。
庭には桜の木が美しく咲き誇り、空気は澄み渡っている。春というに相応しい気候。陽は暖かく降り注いでいた。
「これは?」
尋ねた声も、やはり俺のものではなかった。口が勝手に言葉を紡ぐ。
「主に、僕から」
歌仙は言うと、掌に小さな鈴を乗せた。何の変哲もないただの鈴。ただ、鈴についた紐は藤と桜、そこに白を混ぜて編み込まれており、美しいと思わせた。
「………いらなかったら、捨ててくれて構わないから」
何も言わないことをどう思ったのか、歌仙が顔を逸らして早口に言う。胸にこみ上げたのは、果たして誰の感情なのか。
「い、いらないわけないっ!嬉しいよ、すごく」
慌てて、歌仙の手を掴む。やはり、口は勝手に動くし、声は相変わらず違う男のものだ。
「ありがとう。……本当に、うれしい」
しみじみと、言葉を口にする。それを見つめる歌仙の優しい瞳に、また胸が熱くなった。