第5章 雨催い
夢を見た。
夢の中では、俺はある男だった。
「主、」
目の前には歌仙。陽は高く、蝉が鳴いていた。じんわりと滲む汗に、太陽の光が目に染みる。
「主ってば。聞こえてるかい?」
再び呼ばれて、ああ、俺のことかと思い至る。視線を歌仙に向ければ、彼はどこか拗ねたような表情をしていた。
「もう、きみは本当、どうしようもないね」
呆れたような声色。でもその瞳はどこまでも優しかった。
「君、僕がいなくなったらどうするんだい?」
歌仙は怒ったふりをして、もしもを話す。
「え?……えぇ、ちょっと、嘘だろ。冗談じゃないか」
突然、歌仙は焦ったように俺の頬に触れた。どうしたのだろうと首を傾げると、困ったような、それでいてどこか嬉しさを含んだ複雑な顔をする。
「いなくなったりしない。だから、…そんな顔しないでくれ、主」