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短編集【庭球】

第17章 ゲーム・オーバー〔切原赤也〕


超がつくほどマンモス校の立海で、二年連続で同じクラスになるのはかなり奇跡的な確率だ。
もしかして運命かもしれないなんて、少女マンガみたいなことを私が時折思ってどきどきしているのを、切原はもちろん知らない。


ちょうど一年前、鞄に入れていた携帯ゲーム機が見つかって怒られていた切原に、何気なく「何のソフトやってたの?」と聞いたら、私も得意な格ゲーで。
「どのキャラが使いやすいか」とか「かっこよくてスカッとする技はどれか」とかそんなことで盛り上がって、大学生のお兄ちゃんのゲームの相手を今でも務めさせられている私は、切原の部活がない日のゲーセン通いに付き合わされるようになった。

お兄ちゃんに鍛えられただけあって、いわゆるゲーマーの切原ともほぼ互角に戦えたから、対戦して盛り上がるのは楽しかった。
何より、軽口を叩き合って、一緒にいられるのが嬉しかった。


格ゲーの台のそばにあるUFOキャッチャーで取ってくれたぬいぐるみのキーホルダーを、私が鞄にずっとつけて大事にしていることを、切原はきっと知らないだろう。
少し遅くなると家まで送ってくれるのが嬉しくて、最近は時折わざと時間を引き伸ばすようなゲーム展開に持ち込むことがあるということも。







「なあ、今日ノート全部取っといて」
「コーラ飲みてーなー、頼むわ」


次の日の私はまさに切原のパシリそのもので、得意げな切原を見るたびに気分がどんどん沈んだ。

これでも私たちは一応お年頃の男女なわけで、そんな二人がこういうことをするときって、たとえばキスしてとか、そういう少しは色気のあることを言うもんなんじゃないの。
女の私ばかりが、下世話な大学生の合コンみたいなことばかり考えていたなんて、みじめすぎやしませんか。


「一日言うことを聞け」と言われて文句を垂れながらも、もしかしたら女友達のポジションから抜け出すきっかけになるかもしれないなんて前向きすぎる脳内変換をして、負けるのも悪くなかったんじゃないかとほんの少しだけ期待した昨日の自分を殴ってやりたい。

私はやっぱりどこまでもゲーセン友達でしかなくて、恋愛感情なんてこれっぽっちもないんだと突きつけられて。
まさかこんな形で恋を失うなんて思っていなくて、ああ、こんなことなら賭けになんて乗るんじゃなかった。

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