第17章 ゲーム・オーバー〔切原赤也〕
昨日、格ゲーのディスプレイに表示された「Game Over」の文字が、頭の中をぐるぐると回った。
ゲームだけじゃなくて恋でも負けたのかと思うと、みじめさに拍車がかかった。
だから嬉々とした切原が授業後「今日部活終わるまで待ってろよな」と言いに来たとき、思わず「は?」なんてとげとげしい言葉が出てきてしまったのは、正直致し方ないことだったと思う。
「朝から散々使っといて、まだパシリにする気?」
「約束は約束だろ」
私に何か恨みでもあるのかと聞こうとしたけれど、ないとは言い切れない自分に嫌気がさして、喉まで出てきかけた言葉を飲み込んだ。
「いーじゃん、減るもんじゃねーし」
「もう、バーカ! 切原バカ也!」
「てめー、言いやがったな!」
結局どう転んでも今日の立場は私が絶対的に不利で、もうどうにでもなれってやけくそだ。
コートサイドまでテニスを観に行く気分にはとてもなれなくて、教室から眺めることに決めた。
ずいぶん離れていても、切原が強いことはひしひしと伝わってきて、そしてとても目立った。
テニスコートを取り囲む女の子たちからは黄色い声援が飛び交っていて、切原を含めレギュラー陣がいいプレーをすると声援は殊更大きくなる。
表情は見えないくらい離れているのに、女の子たちの声に鼻の下を伸ばしているのが手に取るようにわかって、それを先輩がからかっていて。
私は切原にあんな顔させられないんだなと思ったら、もっとみじめになった。
あの子たちの中の誰かと賭けをしていたら、切原は「キスして」と言っていただろうか。
「…帰ろ」
切原はまだせっせとボールを追いかけていたけれど、このままここにいたら勝手に涙が出てきそうで、それはどうしても嫌で。
文句を言われるのはわかりきっていたけれど、運よく明日は祝日で学校は休みだ。
私が帰っても、あの女の子たちと遊べばいいのだから、何も問題はないだろう。