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短編集【庭球】

第75章 君のその手で終わらせて〔真田弦一郎〕


* *


「ごめんね、体調が悪いって嘘だったの」
「何? そうだったのか…」


別れ話をされるのが嫌で会いたくなかったこと、仮病を使えばしばらく会わずに済むだろうと思ったこと、弦一郎に初めて嘘を吐いたこと。
私が打ち明けると、弦一郎は驚いていたけれど、すぐに「俺も謝らねばならぬことがある」と言った。


「会う約束を初めて断られて、渚に限ってそんなことはないと思ったのだが…少しばかり、他に男がいるのではないかと疑ってしまったのだ」
「えっ、私が浮気してるかもってこと?」
「ああ。気が気ではなくて、約束していなかったのにここまで来てしまった。少しでも疑った俺を許してくれ」


神妙な顔をした弦一郎に「お互いさまだね」と言うと、「ああ、お互いに取り越し苦労だったな。よかった」と笑って抱きしめてくれた。

彼が訪ねてきたとき、玄関ドアに指を差し入れてきたことを思い返す。
指を挟んで怪我をする可能性だってあったから、自己管理を徹底している彼にしては珍しい、軽率な行動だ。
それだけ焦って私を引き止めてくれようとしたのかと考えると、愛おしさが込み上げてくる。

ねえ、好きだよ。

そう囁くと「俺は愛している」なんてやり返された。
ああ、やっぱり男はずるい生き物だ、と思った。


fin




◎あとがき

読んでいただき、ありがとうございました。
久しぶりの真田、いかがでしたか。
このお話はずいぶん前に途中まで書いていたのですが、これまたずいぶん前に書いた跡部夢と似たようなストーリー展開になってしまったことに気がついて、そのままお蔵入りしていたものでした。
結局最後までわりと似たような展開になってしまいました…が、フォロワさんの「手垢のついたネタは必修科目」というツイートを信じて公開しちゃいます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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