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短編集【庭球】

第16章 エゴイストの恋〔手塚国光〕


「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだ」


公園のベンチには、もう手塚くんの姿があった。
見慣れないジャージ姿。
大会が終わって、そのまま来てくれたのだろうか。
私が走って駆け寄ると、立ち上がって迎えてくれた。


「どう、だった?」
「約束しただろう、必ず優勝すると」
「わあ! よかったー…!」
「報告しなければいけないと思ってな」


膝の力が抜けて、思わずしゃがみ込む。
嬉しくて涙が出そうだ。

私のわがまま、実現してくれたんだ。
どこまでも律儀で、優しい人。
私の大好きな人。


「…おめでとう。本当におめでとう」
「ああ。ありがとう」


ほんの少しでも、彼の頑張る理由になれただろうか。
いや、こうしてわざわざ報告してくれているのだから、なれていなくても本望なのだけれど。


「あのとき俺に、もっとわがままになれと言ってくれただろう」
「え? あ、うん」
「どうしてもほしいものができたんだ。聞いてくれるか」


手塚くんは膝をついて、しゃがんだままの私に視線を合わせた。
強いけれど優しく包み込むような眼差しに、私の視線は絡みついたように離れない。


「林が、ほしい」


え…?
息をするのも瞬きをするのも忘れるくらい、驚いた。
眼鏡の奥の瞳に、吸い込まれそうだ。


「ドイツには行く。帰りはいつになるかわからないから、非常に…言いづらいんだが、無理を承知で言う。待っていてくれないか」



ありったけの好きと嬉しさを込めたはずの「喜んで」という返事は、涙声になったけれど。
そんな甘美なわがままなら、何度だって実現させたい。

手塚くんの幸せに、私がなれるのなら。


fin







◎あとがき

ずいぶんな長文になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
初手塚、いかがでしたか?

個人的にはすごく、すごく難しかったです。
もう手塚くんなんか書きたくなくなるくらい、難しかったです。

話のアウトラインはできていたんですが、そこからどうにもこうにも筆が乗らず…前回の更新からとんでもなく時間が空いてしまいました。
放置プレイだったのに、それでもPV数や拍手の数が増えていて、本当にありがとうございます。
これからもぜひ、見捨てないでやってくださいませ!
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