第16章 エゴイストの恋〔手塚国光〕
「全国大会でね、優勝、してきてほしいな」
この二日間、私なりに考えて、考えて考え抜いて出した結論。
旅立つ彼に面と向かって告白をしても、困らせてしまうだけだから。
せめて、手塚くんの幸せを願うことを、許してほしかった。
今の私にできる、精一杯の「好き」の伝え方。
「それは…」
「私に言われなくてもそのつもりだと思うんだけど…ね、お願い」
整った眉を少し寄せて、驚いたように瞳を見開いた手塚くんは、何かを言いかけたのかもしれないけれど。
私は遮るように言葉をかぶせた。
全国優勝は手塚くんにとっての至上命題で、きっとそれ以上でもそれ以下でもない。
彼が頑張る理由に、ほんの少しでいいから「私のために」という理由も加えてもらえたら、こんなに嬉しいことはないから。
「…わかった。必ず全国優勝してみせる」
「絶対だよ?」
「ああ、絶対にだ」
手塚くんは、私のささやかなわがままを聞き届けて、深く頷いてくれた。
* *
「おい、大丈夫かね?」
揺り起こされて、目が覚めた。
窓の外が薄暗い。
声の主が年配の用務員さんだったことを確認し「すみません」と謝罪して、生徒会室の戸締まりはしておくと告げた。
しまった、もう完全下校の時間か。
書類を片付けていたのに、ずいぶん寝ていたようだ。
ここのところテニス留学をどうするかを悩んで寝不足だったから、夢さえ見ないような熟睡だった。
仕事途中で、俺らしくもない。
ため息とともに立ち上がると、肩にかかっていた学ランが落ちそうになった。
最初から熟睡するつもりはなかったはずで、上着をかけて寝ていた自分を不思議に思ったが、その小さな疑問はすぐに忘れてしまった。
長時間窮屈な姿勢でいたせいで、身体のあちこちがギシギシときしんだのだ。
これは風呂上がりに入念なストレッチをしなければ、明日の朝練に差し支える。
その前に書類が残っているが。