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短編集【庭球】

第15章 名もなき詩〔千歳千里〕*


どうして千歳が、そんな顔をするの。
泣きたいのはこっちだ。
付き合っていた彼氏なんかよりよっぽど大きな存在になっているのに、こうして名もないセックスを続けることでしか、千歳と繋がれないのだから。
なんて皮肉だろう。


「締めすぎっ、たい…」


暗闇の中、こぼれ落ちてきた千歳の声に背中を押されるように、私は快楽の頂上へ駆け上がった。

脱力してそっと目を開けると、「次は一緒がよか」と淋しそうに笑った千歳の額にはうっすら汗が浮かんでいて、それはとても綺麗だった。
ぎりぎりと締めつけられるような、掻きむしりたくなるような、鈍いけれど強い痛みが胸に渦巻く。


加減などしないと宣言するかのように激しく、千歳が再び動き出した。

深いところをノックされてえぐられて、理性を着実に蝕まれて、襲い来る悦楽になすすべがなくて。
達したばかりの敏感なそこはもう限界だというのに、意思に反して熱に浮かされたように千歳を誘い込む。
喘ぐしかない私は無力だ。


身体を起こしてこちらを見下ろしていた千歳が、私の顔の横に両手をついた。
角度を変えて、もっと深くへと打ち込まれる。

千歳の顔が近づいてきて、唇が重なった。
お互いの口の中で喘ぎが反芻して、それがとても心地よくて。
もうおかしくなってしまいそうで、もしかしてこのまま死ぬのかもしれない。
千歳の腕の中で死ぬなら、本望だけれど。


「あッ…や、ば」


千歳が短く息を吐いて、限界が近いことを知らせてくる。
また少し大きくなった気がして、律動のスピードがまた増した。


このまま二人でぐちゃぐちゃに溶けて、混ざってしまえばいいのに。
そうすればずっと一緒にいられるのに。


真っ白になった頭に、浮かんできた言葉が。
散々押し込めていた言葉が、抑えきれない喘ぎに、乗ってしまった。


「ちと、せ…すき」
「ーくッ…!」


千歳がどくん、と脈打つのと同時に、私も絶頂を迎えた。
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