第15章 名もなき詩〔千歳千里〕*
身体を重ねる日もあれば、くっついているだけの日もあったけれど。
ためらいがちだった腕は、二度三度と私を抱くたびに、迷いを削ぎ落としていった。
私は私で貪るように求められることも、ぬくもりを分け合うことも、どちらも嬉しくて心地よくて、淋しいふりをしては性懲りもせずに千歳に抱かれた。
失恋の傷はとっくに癒えているというのに。
高校に入ってクラスが離れたときが、この関係を清算する絶好のタイミングだったのだろうと、今では思う。
名もなく脆い繋がりだったけれど、千歳への感情は、たとえばメール一本であっさり終われるほど薄っぺらなものではなくなっていた。
そろそろ卒業しなければ、一年前以上に失うのがつらくなるとわかっているのに、やめられなかった。
「なんば考えようと?」
かすれた低音が左耳に直接落ちてきて、直後に鋭い痛み。
「いっ、た…」
耳朶を噛まれたのだと気がつく。
まるで本物の肉食獣だと思ったら、腰がずくりと疼いた。
唇の端から漏れ出た声には、非難の色を一応込めたつもりだったのに、どう聞いても甘い喘ぎにしか聞こえなかった。
千歳から与えられるものなら、痛みさえ悦ばしい。
「余所見しよるたァ、えらか余裕たいね」
余所見じゃない、千歳のことを考えてたのに、という抗議は吐息に溶けてなくなった。
千歳はそのまましつこく耳を甘噛みしては舐めあげて、時折強く噛んだ。
ワンピースの裾からは左手が入ってきて、胸や腰をゆるゆると撫でる。
核心を巧みに避ける大きな手がじれったくて、うらみがましく千歳の顔を見上げた。
首筋に浮き出た骨とシャープな顎を爪の先でそっと撫でると、降ってきた短い吐息はとてつもなく悩ましかった。
千歳の中心が荒ぶって、制服越しにも熱を持っていくのを、背中で感じた。
私は、千歳に後ろから包まれるようなこの体勢が好きだ。
どんなに小さな呟きも、艶かしい吐息も上昇する体温も、千歳のすべてを一番近くで感じられる気がするから。
そしてそのどれもが麻薬以上の依存性を持っていて、私をどこまでも淫らにさせる。