第15章 名もなき詩〔千歳千里〕*
千歳は本当に不思議だ。
誰よりも大きな身体と、思わず振り返りたくなるくらいに整った顔を併せ持っていて、それはつまり誰よりも目立つということなのに、いつの間にか、本当にいつの間にか、するりと学校を抜け出してしまう。
昔からそうやって授業をことごとくサボっていたというのだから、もう天賦の才としか言いようがない。
真昼間から学生服を着て外を歩いていたら、誰から咎められてもおかしくないのに。
見逃されてしまったり、周囲に紛れてしまったりする容姿でもサイズでもないのに。
猫型ロボットの出してくれるひみつ道具の中に、かぶると周囲から認識されなくなるという便利な帽子があったような気がするけれど、千歳はもしかしたらこの帽子を持っているのかもしれない。
あるいは、千歳の前世は優秀な忍者か何かだったのかもしれない。
その可能性を真剣に考えてしまうくらい、誤解を恐れず言えば、消えるのだ。
そしてその能力は、一緒に授業を抜け出す私にも伝播するらしいというのが、この一年間で私が学習したこと。
一昨年、中二で四天宝寺に転校してきた私は、東京に残してきた彼氏といわゆる遠距離恋愛だったのだけれど、一年後の秋にあっさり振られてしまって。
「別れよう」というメール一本での終わり方は、あまりにもあっけなかった。
授業を抜け出して屋上で泣いていたら、声をかけてきたのがクラスメイトの千歳だった。
決して仲がよかったわけではないけれど、同じ転校生としてどことなく彼にシンパシーを感じていた私は、頭を撫でてくれた千歳の手に、そして「そぎゃん泣くとやったら胸ば貸しちゃろか?」と困ったように笑う優しさに、甘えてしまった。
大きな身体に包まれると、ささくれた心が和らぐ気がした。
唇を重ねて、身体を委ねると、その瞬間だけは何もかも忘れられた。
毎週金曜の夜に彼氏と長電話していたことも、夏休みは東京へ会いに行く約束をしていたことも、それが初めてのお泊まりになるはずだったことも、全部。