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短編集【庭球】

第15章 名もなき詩〔千歳千里〕*


*裏注意
*高校生設定







休み時間、言葉もなく、後ろからぽん、と頭を撫でられた。

その手の大きさと、重み。
それだけで私は、手の主が千歳であることを、そして次の授業は千歳と一緒にサボることになるということを、理解する。


首を必要最小限に捻って振り返る。
こんなことをするのは千歳しかいないとわかってはいるけれど、一応人違いでないことを視界の端で確認してから時間割を見た。
次は音楽か。
自分一人のときは無差別にサボるくせに、こうして誘ってくるときは一丁前にサボってもいい授業を選んでいるらしい。

もう一度顔を見ようと今度はぐるりと向き直ったら、千歳はへらりと、ふやけたように笑って教室から出て行くところだった。


小さなため息をついて、席を立った。
音楽室へ移動するクラスメイトの波にのまれないように、そっと。




始業を知らせるチャイムを背中で聞く。
裏山の中腹にあるベンチ、いつもの場所に、千歳はいた。

特に言葉も交わさないまま隣に腰掛けると、長い腕に腰を絡め取られて、あっという間に唇を奪われた。
息継ぎのために一瞬離れた千歳の瞳は、獲物を今にも捕らえんとする肉食獣の瞳。
ぎらりと猛るオスに、私ははしたない期待を膨らませながら、噛みつくような千歳のキスを受け止める。





名前もない不毛な関係になって、もう一年になる。

千歳とこうして授業を抜けるのは、だいたい週に一回。
こうなるまでは自分が問題児になるなんて考えたことすらなかったのに、よくもまあこんなに頻繁にサボるようになったものだと思う。
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