第14章 おかえり〔忍足謙也〕
「…ちょお、お人好しが過ぎるんちゃうん?」
誰よりも近くでずっと見とったから、わかる。
去年の全国大会で負けてから、練習量をめっちゃ増やしてたこと。
去年の夏よりずっと日焼けしとること。
トレーニングになるから言うて、パワーアンクルとかいう重りをつけて生活してたこと。
へとへとになってんのに、帰ってきても自主練やとか理由つけて、大好きやったドラムの時間まで割いて部屋でこっそり筋トレしてたこと。
筋トレしながら布団も被らんと床で寝てしもて、風邪引いてたこと。
あれだけ頑張っとったのに、冗談やなくて血の滲むような努力をしとったと思うのに。
誰よりも勝ちたかったんやろうに。
それなのに、一番大事な試合を譲ってしもたなんて。
もう、私の方が悔しくなってくる。
悲しくなってくる。
仲間を大切に思うからこその、謙也なりの心配りやったんやってわかってまうから、なおさら悔しい。
大会を勝ち進むことこそがみんなのためやって、自分を無理やり納得させたんやろなってありありと想像できてまうから、余計悲しい。
「謙也のあほ。あほ、あほ」
「あほあほうっさいわ!」
「あほやって…ほんま、あほ…」
「わ、ちょ、なんでお前が泣くねん」
おろおろとティッシュの箱を差し出してくる謙也に「やって悔しいねんもん、謙也が頑張ってたん知っとるから」と伝えるまでに、ずいぶん時間がかかった。
言葉が途切れ途切れになって、せっかちな謙也はイライラしてたんかもしれへんけど。
ほんまに泣きたいんは私やなくて謙也なんかもしれへんけど。
謙也は私の頭を撫でながら最後まで聞いてくれて、「ありがとうな」と言ってくれた。
ああ、そういう無駄に責任感が強いところも、大きくて優しい手も、どうしようもあらへんくらい好きやのに。
なんでこない近いのに、なんでこない遠いんやろ。