第13章 オワリノハジマリ〔仁王雅治〕
冷静になりたくて、絡め取られそうな視線を外そうとするのに、できない。
深い瞳に、強引に引きずり込まれそうだと思った。
さっきまで心ここにあらずとでもいうような軽口を叩いていたくせに、こんなに真剣な目をしていたなんて。
仁王の瞳に映った自分と、目が合ったような気がした。
なんて情けない顔だろう。
いたたまれなくなって、目を閉じた。
頭の中で、心臓の音ばかりが響いていた。
こんなに自分で自分が恥ずかしくなったのは、初めてだ。
初めて。
…そうか、私は仁王の目を正面から見たことがなかったのだ。
見透かされそうで、嫌だった。
自分の気持ちをはぐらかしているのを。
嘘、じゃあ真剣じゃなかったのは、私の方だったってこと…?
急に不安になって、自分でも視線がぐらぐらと動いたのがわかった。
それを目の前の仁王が、見逃してくれるはずがなくて。
「どうかしたんか?」
「…いや、なんでも、ない」
「ほーか。ようやく俺は本気じゃっちゅうことがわかってもらえたんかと思ったんじゃがのう」
眉尻を下げて淋しそうな表情をつくって。
わかっているくせに白々しく茶化すなんて、この男は本当に意地悪だ。
抗議の意味を込めて睨んだら、仁王はふっと笑って。
両頬に添えられていた手が離れていって、代わりにもっと大きな温もり。
「大事にしたくてのう…こうするん、ずっと我慢しちょった」
抱きすくめられたことに気がついて見上げたら、仁王の薄い唇がゆっくり動いて、甘すぎる言葉を紡いだ。
自分の気持ちに蓋をして、きっぱり離れようと思っていたというのに、甘美な刺激は私の脳を確実に蝕んで、とろけさせていく。