第13章 オワリノハジマリ〔仁王雅治〕
「なんで、とか聞かんのか?」
「うん」
「…ほーか」
だってそんなの、聞かなくてもわかるから。
歴代のカノジョたちはきっと、仁王から突如切り出される別れに理由を求めてきたのだろう。
けれど私は、それらしい理由を与えられることさえはばかられた。
身分違いだったと直接言われることほど、惨めなことはないと思った。
「別れないで」と泣いてすがるより、さらっと別れて、平民なりのちっぽけな自尊心を守った方がずっといい。
仮にもカノジョだったはずなのだけれど、自分が仁王のカノジョだと実感したことは一度もなかった。
いや、強いて言えば今か。
別れを切り出されて初めて、付き合っていたことを知るなんて、笑い話にもほどがある。
手が早いと噂の仁王が、私には文字どおり、指一本触れなかった。
手を出す価値もないということなのだろうと思った。
心のどこかで何かを期待して、無意識にかわいらしい下着を選んでつけていた自分は、本当に救いようのないバカだ。
きっと仁王は、毎日入れ替わり立ち替わりはべらせているにぎやかな女の子たちに、ほんの少し飽きてしまったのだと思う。
一時の気の迷い。
クラスでも目立たないタイプの私が、きっと物珍しかったのだ。
今思えば、あの日の告白も、ずいぶんと軽かった。
あのときの私は、言葉の軽い重いを判断する以前に、そもそも告白されるのが生まれて初めてだったし、まして相手が愛しの仁王だという状況に舞い上がってそれどころじゃなかったから、すっかり忘れてしまっていたけれど。
所詮、私はその程度の存在だったのだ。
告白されたのが偶然の中の偶然だったとすれば、こうなることは必然も必然だった。