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短編集【庭球】

第13章 オワリノハジマリ〔仁王雅治〕


「別れるか」


仁王の口から出たその言葉は「コンビニでも行くか」というくらいの軽さだった。


「そっか、わかった」


私の口から出たのも、同じくらいの軽さだったと思う。
たんぽぽの綿毛のような、仁王がたまにやっていたシャボン玉のような。
とにかく、ふうっと吹けばどこか遠くに飛んで行ってしまうくらいの。



来たるべきときが来た、とでも言うのか。
長かったような、短かったような。
あの日も、今日みたいに天気がよかった。





密かに想いを寄せていた隣のクラスの仁王に突然告白されたのは、三か月前のことだった。


一年のときは幸村と、二年のときは柳と、そして今年は真田と柳生と同じクラスになった私はいつの間にか、時折彼らを訪ねてくる仁王のことを心待ちにするようになった。
でも私は遠くからこっそり見ているだけで幸せだったし、ファンだと公言して大声で騒ぐような勇気もなくて。
廊下側の席になって「柳生はどこ行ったんかのう」と話しかけられたときは、あまりの距離の近さに心臓が止まるかと思って、すぐに目を逸らしてしまった。


言葉を交わしたのはそんな程度だったから、あの日、授業をサボって屋上へ行ったら先客の仁王がいて、隣へ座るよう促されたのには本当に驚いて。
「お前さんもサボりか」と尋ねられて「うん」と返事をしたあとは、ほとんど話もしなかった。

気持ちよさそうに隣でうたた寝する仁王は、作り物かと見紛うくらい綺麗だった。
私も昼寝をしたくてサボったはずだったのに、緊張してしまって寝られるような精神状態ではなくなって、寝息を立てる仁王と空とを交互に眺めていた。


そろそろ授業が終わるという頃、仁王がごそごそと起き上がって、あくびを一つして。
抜けるような青い空を見上げながら「なあ林。好きなんじゃ、付き合ってくれんか」と言ったのだ。

罰ゲームなんじゃないかと勘ぐったあとは、人違いなんじゃないかと真剣に訝しんだ。
どちらも違うと仁王は言ったけれど、なぜ私に、という疑問は消えなかった。
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