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短編集【庭球】

第12章 有神論〔柳蓮二〕


「たとえば、だな」
「…うん」
「なぜお前はこんなにもふかふかと抱き心地がいいのか、とか」


私の肩口に顔を埋めるようにして話すから、蓮二の声が耳元で響いて。
ふぇ、と変な声が出て、身体がぶるっと震えた。
自分の顔が赤くなるのを感じながら、こんな反応をしたらまたからかわれるんだろうな、なんて頭の隅で考える。


「それ、は…蓮二よりほら、皮下脂肪が多いから…」


太っているからという言葉を使わなかったのは、私のささやかな抵抗。
背が高くてスリムなナイスバディを毎日テニスで鍛えている蓮二と比べたら、私じゃなくてもみんな太っているようなものでしょ。


「ではなぜ、皮下脂肪が多いのだろうな」
「女の子ってのはそういうもんですー!」
「そうか。なぜそのようにできているのだろうな…」


蓮二の腕の力が、ぐっと強くなる。


「なぜ、こうして抱くと安心するのか」


私からは顔は見えないけれど。
耳元をくすぐる声が、湿度を帯びた。
あれ、いつの間にこんな雰囲気になったんだっけ…?

私の心臓は、とくとくと早鐘を打ち始める。
でも、焦りながらも何か期待している自分もいて。
それが恥ずかしくて、縮こまるように身体を硬くした。


「安心するのになぜ…なぜ俺をかき乱して、惑わせるのか」


蓮二の髪が私の首筋を撫ぜて、くすぐったい。
鎖骨のあたりに軽い痛みを感じる。
音もなく所有印を刻まれたことを悟って、私の心臓はもうオーバーヒート寸前だ。


「れん、じ…?」
「もし神様が存在して、渚と俺とを会わせてくれたとするなら、感謝しなければいけないな」


ああ、神様。
こんなに私を惑わせて、酔わせて、狂わせるこの人と。
どうかこれからもずっと、一緒にいさせてください。


背中にひんやりとした床を感じながら、そんなことを思った。


fin






◎あとがき

読んでいただき、ありがとうございました!

初蓮二、いかがでしたか?
神様の話題を吹っかけた瞬間、変なスイッチが入っちゃう話。
蓮二のスイッチは凡人には理解しがたいところにあるといいな、なんて想像(妄想)して書きました。
「ながら族」の蓮二に軽くあしらわれるのもなかなかオツですよね。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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