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短編集【庭球】

第12章 有神論〔柳蓮二〕


ぱたんと重量感のある音を立てて、分厚い本が閉じられる。
ひょろりと頼りなげにはみ出た栞は、さっき蓮二の部屋に来たときよりもずいぶんと先へ進んでいるように見えた。


「神様がいるかどうか、だったな」
「あ、うん」
「そんな非科学的なもの…と言いたいところだが、どうにも説明がつかないことというのはあるものだなと思う」
「へえ、蓮二でもわからないことってあるんだ?」
「そりゃあるさ」


蓮二は、私の知らないことをたくさん知っている。

今みたいに私が宿題を広げていると、まだ習っていない範囲でも、先生よりずっとわかりやすく教えてくれて。
私が気まぐれにふと口にする他愛もない疑問にも、答えが返ってこなかったことは一度もない。
テニスの展開みたいに先のことでも手に取るようにわかってしまうんだって、前に丸井くんが言っていた。
まじエスパーすぎて怖いんスよ、なんて切原くんは本気で気味悪がっていたっけ。

蓮二にもわからないことって、一体どんな難題なんだろう。


「俺にもわからないことというのはなんだろう、と聞きたいのだろう」
「あ…ばれた?」
「ああ、顔に書いてあるからな」
「えっ! やだ、もう…」


毎日こんな調子でからかわれているから、私は蓮二のいいカモなんだと思う。
拗ねたふりをしていたら、蓮二は閉じた本をテーブルに置いて、私を手招きした。

ずりずりと隣に移動すると、蓮二の長い腕が私を包む。
こうやって優しくされると、からかわれたことなんかどうでもよくなってしまって。

本当に、私って単純。
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