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短編集【庭球】

第12章 有神論〔柳蓮二〕


「ねえ、神様って信じる?」


向かいで本を読み耽っていた彼氏は、私が突然投げつけた質問にゆっくり顔を上げた。

普通ならごく当たり前の反応に、私は右手のシャープペンシルを取り落としてしまうくらい驚いた。
蓮二はたいてい、字面をものすごいスピードで追いつつ、それなのになぜか私の質問にもよどみなく答えるから。
うわ、これってかなりレアじゃない?


背中合わせに話していたら誰も蓮二が本を読んでいるなんて思わないだろうというくらい、蓮二との言葉のキャッチボールはいつも完璧だ。
付き合いだした当初こそ片手間にあしらわれているような気がして不服だったけれど、蓮二のトークがあまりに自然だから、気にならなくなった。

二刀流とでも言えばいいのか、単純にすごいと思う。
蓮二ならテニスをしながら本も読んで、英語のスピーチまでやってのけるだろうと、私は常々思っている。
ついでに、今私が苦戦している数学の宿題までこなしてくれたら嬉しいんだけどな、なんて。


その蓮二が読書を中断したのだから、これは一大事だ。
レア度でいえば、真田くんが部活をサボるのと同じくらい…いや、それはさすがに言い過ぎか。
とにかく私は、自分だけに向けられた彼氏の顔を久々に見て、自分の投げた質問が大暴投だったんじゃないかと大いに焦った。
地雷か? いや、そんなことはないはずだけど…怒らせた?


「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「あ、な、なんでも…ない」
「そうか」


私のぎこちない受け答えが面白かったのか、ふっと蓮二の表情が緩んだ。
ずっと一緒にいないとわからないかもしれないけれど、ほんの少し。
普段は淡々としている蓮二の笑顔に、私はすこぶる弱い。
よかった、とりあえず怒ってはいないみたい。
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