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短編集【庭球】

第11章 教師にラブソングを〔渡邊オサム〕


メンバーは男の子ばっかりで、人気ロックバンドのコピーがやりたいって話で。
女にしては低い、けど男にしては高い半端な声の私は、男性ボーカルのキーをいくつか上げて歌うことになった。

本番は一か月後、持ち時間は十五分。
盛り上がる鉄板ソングが二曲とバラード、ちょっとマイナーなアルバム曲の計四曲に決まった。


山本くんのドラムも、ギターもベースも、プロ目指せるんちゃうかってくらい上手くて、私は足を引っ張らへんようにその日から毎日練習した。
特にアルバム曲は知らへん歌やったから、山本くんにCDを借りて、暇さえあれば聴き込んだ。

引退してからは家に帰ってもやることがあらへんくて、だらだら過ごしてまう日が多かったから、やらなあかんことがあるのはありがたかった。
やっぱりテニス部のみんなは私のことをようわかってくれてんのやな、とも思った。






そんな生活を半月続けた頃。
そろそろ歌詞を暗唱せなあかんと思って、家で歌詞カードを開いたら、そのバンドのギタリストが煙草吸ってる写真があって。
急にオサムちゃんの顔が頭に浮かんで、胸がぎゅうって苦しくなった。


なんで。
ねえ、なんで。
振り払おうと思ってんのに、なんで浮かんでくんの。
こんなに忘れようと思ってんのに、なんで忘れられへんの。


叶わぬ恋を綴ったバラード。
歌って歌って歌いまくって、湧いてくる気持ちをどうにか紛らわそうと思ってんのに、好きがどんどん溢れてきて、どうにもできひんようになって。
指先にふと冷たさを感じて、私は自分が泣いとったことに初めて気がついた。



その後の半月は、自分でもびっくりするくらい、あっちゅー間に過ぎた。
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