第11章 教師にラブソングを〔渡邊オサム〕
「…こっからは、そこらのオバハンのしょーもないおせっかいやと思って聞いてほしいねんけど」
「うん」
「部活引退してから急に渚が元気なくなってしもて、みんな心配してんねん」
「…そんなことあらへんよ」
「いやいや、大ありやって。鏡見てみいや、顔死んでるで、ほんま」
白石は困ったように笑って、私の顔を覗き込む。
「俺らはな、負けはしたけど力は出し切ったし、やり残したことはないて思っとるから、後悔は毛ほどもないねん」
「………」
「けど、渚の落ち込みよう見とったら、なんややり残したことでもあるんちゃうかな、て」
「やり、残し…?」
「おん。昨日謙也やらユウジやらと話してて、燃え尽き症候群でもなさそうやなってな。なんか後悔してるんと違うかって話になってん」
やり残したこと。
心当たりがあるとすれば、オサムちゃんのこと。
好きって一言を、言えばよかったんかもしれへんってこと。
けど、それは言ったらあかんこと。
オサムちゃんを困らせてしまうこと。
明確に拒絶されたら、立ち直れへんくなるリスクのあること。
やから、何もできひん。
やから、私だけがあの日に取り残されとる。
唇を噛んで黙りこくった私に、白石が声のトーンを少し上げて続けた。
「俺らの思い過ごしやったらええねんけどな。もし落ち込んどるんやったら、気晴らしに歌なんかどうやろって思いついただけやから」
「…そか」
「もちろん、これに無理に出ろとは言わん。けど、前みたいに元気になってほしいねん。俺らに愚痴言うなり、たこ焼きドカ食いするなり、お笑い見に行くなり、方法はなんでもええから」
「うん」
「ええか? これは部長命令やで」
「もう部長やあらへんやろ」
「ええツッコミやな、さすがや」
「なんでそこで白石がドヤ顔するん」
二人で声を出して笑い合って、久しぶりにこんなに笑ったような気がした。
真剣に心配してくれたのが伝わってきて、心がじんわりあたたかくなる。