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短編集【庭球】

第11章 教師にラブソングを〔渡邊オサム〕


部活を引退したら、それまで毎日会ってたオサムちゃんと、ほとんど会われへんようになった。


同じクラスの白石や謙也の方がよっぽど部活に打ち込んどったはずやのに、いざ引退してみたら私の方が腑抜けになってしもて。
二人が「あいつらちゃんとやっとんかいな、久々に顔出そかー」なんて話し出すのを見逃さへんように、休み時間も気が抜かれへん。

さらに悪いことに、隣のクラスは古典の担当がオサムちゃんやのに、私のクラスは違って。
週に二回、廊下に出て隣の教室に入っていくオサムちゃんを目で追って、たまに気まぐれに「おお、渚やん。ちゃんと受験勉強してるんやろな?」なんて声をかけてもらうのを、ひたすら待つようになった。

自分から声をかければきっとオサムちゃんは応じてくれるんやろけど、面と向かって話したら気持ちが勝手に溢れ出すんやないかって心配やったから、やめといた。






オサムちゃんに会われへんで悶々と一日を過ごした私に、白石が放課後、学校新聞の草稿片手に話しかけてきた。

「なあ、これ出てみたらええんちゃう?」

ここ、と読むように促されて、白石のただならぬ本気度を感じる。
完璧主義者で、発行前の新聞を他人に見せるのを極度に嫌がるはずの、あの白石が。

少し緊張しながら指差された部分に目を通すと、そこには「ボーカル募集」と書かれた短い記事。
要するに、バンド組んで来月の文化祭のステージに出ませんかって話やった。


「渚、歌上手かったやん」
「え、私? 無理やって、そんな」
「俺感動してんけどなぁ、みんなでカラオケ行ったとき。めっちゃええ声やし」
「おおきに。けど、おだてても何も出えへんよ?」


笑い飛ばしたつもりやってんけど、白石の顔がまだ真剣そのもので、私の笑い声は尻すぼみになる。
体のいい断り文句が浮かばへんから、白石の言葉を待った。
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