第11章 教師にラブソングを〔渡邊オサム〕
二学期になって、早一か月。
だんだん涼しなってきて、同級生は受験やなんやってざわつき始めたのに。
私は一人、夏に取り残されとった。
全国大会で青学に負けたとき、頑張ってきたみんなを勝たせてあげられへんかった悔しさと同じくらいに、オサムちゃんのそばにおられへんようになる淋しさで、涙が出てきた。
もしかしたら、私がこないな不純な動機でマネージャー業をしとったから罰が当たったのかもしれへんと思ったら、みんなに申し訳なくなって、もっと泣けた。
ずっと、もうずっと、オサムちゃんが好きやった。
それはもちろん、先生としてとか顧問としてやなくて、一人の男の人として、好きやった。
けど、この気持ちを言葉にしたところで、先生と生徒、顧問とマネージャーの関係が変わるとも思えへんかった。
普段は私たちと一緒におちゃらけてくれるのに、千歳の退部届を受け取ってへんって言い張る優しさとか、そのせいで試合に出られへんようになった謙也にこっそり「お前がおらへんかったらここまで来られんかったんやで」って誠意を尽くすところとか、もう数えだしたらきりがないけど。
とにかくオサムちゃんは生徒想いやから、いくら教師らしくない言動や見た目とはいえ、教え子に手を出すなんてことは絶対にせえへんやろなと思った。
やから、その他大勢の女の子たちより少しだけオサムちゃんの近くにおれるマネージャーの立場が、ほんまに大切やった。
ドリンク作りやらタオル類の洗濯やら、いわゆる一般的なマネージャー業の他に、すぐ失踪する千歳を捜索したり、ぎゃーぎゃー騒ぐ金ちゃんを白石と一緒になだめたり、小春の小道具を修理したり、仕事はお世辞にも楽やなかったけど。
オサムちゃんにお茶を渡すときに少し手が触れるだけで、「ご苦労さん、おおきに」って言ってもらうだけで、疲れなんて一瞬で忘れられた。
地区大会や関西大会の打ち上げで遅くなった日は、夜道は危ないやろって車で送り届けてくれて、運転席で煙草をふかす姿に横目でこっそり見惚れた。