第10章 Body & Soul〔仁王雅治〕*
* *
ピピピピ、という電子音で意識を取り戻した。
「…あれ……」
「おう、起きたんか?」
右隣にいた雅治が、おはようさんと笑う。
………え?
右、隣?
「ええええええ!? 運転ッ!」
「なんじゃ、やっと起きたと思ったら、うるさいのう」
運転席の雅治が、横目に私を見て、顔をしかめた。
一瞬にして覚醒した意識で、ここが私のマンションの駐車場だということ、雅治がここまで運転してきたのだろうことを理解する。
私を起こした電子音は、エンジンを切ったときの音だったのだということも。
「ちょッ、ちょっと! 免許持ってないでしょ?!」
「まあ、な」
「事故は?! 事故とか起こしてないよね?!」
シートベルトを外して、助手席から飛び出した。
ぐるりと一周して、凹みも傷もないことを確認して、ひどく安心する。
ヒール靴であることを考慮しても足取りがおぼつかなくて、先刻の秘め事を思い出させられた。
まさか指だけで、しかも利き手ではない右手だけで意識を飛ばされて、高校生で無免許の彼氏に運転を交代させてしまうなんて。
想定を大きく超えた事態に、頭が痛くなる。
深いため息をついて助手席に座った私に、雅治がしれっと言った。
「意外と楽しかったぜよ」
「いや、そういう問題じゃなくて…無免だから、普通に」
「ま、怪我もないし、警察にも捕まっちょらんし、よかろ?」
「よくないでしょ…警察……って、警察! 交通規制とかなかったの?!」
「ああ、おまわりもおったが、なーんも怪しまれんかったのう」
雅治はポケットの校章を巧みに手で隠す仕草を見せて。
そういえばスクールカラーのネクタイもしっかり外している。
確かにこれなら、仕事帰りのサラリーマンに見えなくもない、かもしれない。
悪知恵が働くというのか、何というのか。
言葉が見つからない。