第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕
ホテルに誘ったのは、どちらからだったのだろう。
いや、どちらからだったとしても、誰とでも寝る女だと思われたという結果は同じか。
相手がジャッカルでなかったら、もっと軽く、笑って流せただろうか。
たぶん私はジャッカルに対して、恋心のようなものを抱いていた。
過去それなりに恋人だっていたし、もちろんラブホだって初めてじゃない、正直に言えば付き合っていない男と来たことだって今日が初めてじゃない。
彼に捧げられるような貞操があったわけでもなんでもない、のだけれど。
──ジャッカルにだけは、軽い女だとは思われたくなかった。
終わった、さよなら私の恋。
セフレになら今からでもなれるだろうか、なんて浅はかな考えが頭をかすめて、たまらずかぶりを振った。
そういう不義理なことを嫌うジャッカルだからこそ、惹かれたのだ。
二年ほど前だったと思う。
昨日と同じようにみんなで飲んでいたとき、仁王が女遊びの限りを尽くしているという話題になった。
真田が酔い潰れて眠っていたのも手伝って、みんな羨望半分に笑って咎めた程度だったけれど、ジャッカルだけは眉をひそめて「お前、いつか刺されるぜ」と低い声で言った。
後からこっそり「ぶっちゃけ、ちょっと羨ましいとかないの?」と問うと、ジャッカルはどきりとするほど毅然とした瞳で「一回きりの後腐れない関係を否定する気はねえよ、でも仁王の場合は言い寄ってくる女の好意を踏み倒してるだけだろ」と言い切ったのだ。
付き合っていた男の浮気が原因で別れた直後だった私には、ジャッカルの真摯さはとてもまぶしかった。