第10章 Body & Soul〔仁王雅治〕*
製薬会社で営業をしている私は、珍しく外回りからの直帰を許されて。
氷帝学園での練習試合を終えた夏休み中の雅治を、近くの大通りで拾ったのが、一時間前。
大きなラケットバッグを後部座席に放って、「涼しいのう、天国じゃ」と言いながら助手席に乗り込んできた雅治からは、美容院帰りみたいにいい匂いがした。
てっきり汗だくになっているだろうと思っていた私は、すごく驚いて。
それを伝えると、雅治は「部室にシャワーブースがあってな、さすがボンボンの通う学校は違うぜよ」なんて少し笑った。
シャンプー類はもちろんドライヤーもワックスも貸してくれたらしくて、最近の高校生がオシャレなのか、氷帝がすごいのかは、いまいちわからなかった。
「着いたら起こしてあげるから」
私のマンションまでは、仮にスムーズに走れたとしても四十分くらい。
この渋滞では、その倍はかかるかもしれない。
猛暑の中で朝から夕方までテニスをしていたのだから、さぞ疲れているだろう。
少しでも寝られるのならと、私はカーステレオのボリュームを少し落とした。
二十分くらい経っただろうか。
ほんの数メートルずつしか進まない渋滞にイライラしてきたとき。
眠っていたはずの雅治の手が不意に、サイドブレーキにかけた私のそれに重ねられた。