第67章 星を数えて〔財前光〕
考えつく限りのアプローチを尽くしてようやく付き合えることになったけれど、正直、テニスよりも必死になった気がしなくもない。
…俺も頑張る方向間違うてるて言われとったかもしれへんな。
ふとそんなことを思って、少し顔が歪んだ。
「あの、これ、お誕生日おめでとう」
カバンの中身をごそごそと探っていた先輩が、小さな箱を取り出した。
改まったように両手で差し出されたそれをお礼を言いながら受け取って、開けてもいいかと視線で尋ねる。
「どうぞ、ってもネタバレしてるから楽しみでもなんでもないやろけど」
「いや、普通に楽しみにしてましたよ」
「…気に入ってくれるか心配や」
付き合ってから初めて迎える誕生日について、先輩は大いに悩んでくれたらしかった。
プレゼントは何がいいかと尋ねてきたのは二週間ほど前だったか。
「いい加減迷ったんやけど、どうせならちゃんと使ってもらえるもんがええと思って」と困ったように言った先輩に、俺は「ピアスがええ」と迷うことなく言った。
五つあるピアスホールには、色違いで小さなフープピアスをつけている。
そのうちの赤色だけを先輩から貰いたいのだと。
かなり細かいリクエストに先輩は少し面喰らったようだったけれど、すぐに「ん、わかった」と頷いて「やっぱ独断で決めんくてよかった」と言った。
入学したときには両耳に一つずつだったピアスホール。
それは好きな洋楽のアーティストがピアスをしていたのに憧れて漠然と開けたものだったけれど、そこから三つ増やしたのははっきりと目的があったからだ。
音楽で成功すること、テニス部で全国優勝すること、そして部活のマネージャーである渚先輩を手に入れること。
有り体な言葉を使えば、願かけだった。
増設に伴う痛みも、毎朝鏡の前でピアスをつける作業も、そのたびに決意を再確認させてくれた。