第67章 星を数えて〔財前光〕
まだっすか、と一言メッセージでも送りつけてやろうかと文面を打ち込んでやっぱりやめたのは、待ちきれないと言っているようでダサいし、急かすほどに余裕がないことを知られるのも癪だと思ったから。
いつもなら一曲でも多くと惜しむように流している音楽さえ聴く気になれず、まさに手持ち無沙汰な時間を過ごしたのだから、ため息の一つくらい出てもよさそうなものなのに、本人を目の前にするとそんなことはどこかへ吹き飛んでしまって。
ガキか俺は。
自分で自分に呆れていると、俺の隣に腰かけて呼吸を落ち着けた渚先輩が「ごめんな、遅くなって」と口を開いた。
「反省会に付き合わされててん…光、銀のアドリブのボケにちょっと笑っただけやったやろ?」
「は? 反省会て」
「今回のネタ、みんなそれなりに自信作やったらしくて、ユウジは大荒れやし白石は落ち込むし、結構なカオスやったで」
そんなもんのために俺は待ちぼうけしてたんか、アホくさ。
ほんまあの人ら頑張る方向間違いすぎやし、カオスなんはいつものことやろ。
その感情は顔に思い切り出ていたらしい。
「普通は愛想笑いでもするとこやと思うけど?」と悪戯っぽく笑った先輩に、俺は「しゃーないっすわ、つまらんもんはつまらんし」とこぼした。
愛想笑いは嫌いだ。
もし自分がそれを向けられる立場なら、こんなに惨めなことはない。
笑顔は無理に振りまくより、本当に面白いとか嬉しいというときのために取っておくべきだと思う。
「ま、そういう嘘吐かれへんとこが光のええとこやと思うわ」
先輩は肩をすくめてそう言った。
笑いに対してやたらとストイックなこの学校で、ノリが悪いだの冷たいだのと切り捨てられることの多い自分の本音をありのままで受け入れてくれる先輩に惹かれたのは、きっと必然だった。