第67章 星を数えて〔財前光〕
「っ、ご、ごめん、待った?! 待ったよな?!」
「…や、別に」
突き放すような口調になってしまったのは、急いで走ってきてくれたことが嬉しくて緩みそうになる口元を隠すためだったけれど、そんなことは口が裂けても言えない。
ぱたぱたと駆けてきた渚先輩の首筋に流れる一筋の汗と弾む呼吸に、柄にもなくどきりとするのを感じつつ、俺は「何しとったんすか」と問うた。
心を落ち着けるための深呼吸が、不機嫌によるため息に聞こえるようにと心を砕きながら。
恋人であり部活のマネージャーでもある渚先輩を待っていたのは、実際には三十分程度だったと思うけれど、体感としては二倍以上に感じていた。
硬くて座り心地の悪い公園のベンチで、何度脚を組み替えたことか。
待ち時間が焦れったいなんてどこぞのスピード狂にでもなった気分だと、いつも半分馬鹿にしているダブルスペアの顔を思い浮かべてはげんなりした。
時間があるのなら日課のブログでも書けばいいところだったけれど。
しかも今日は自分の誕生日で、部活後は先輩たちが彼らなりの愛情表現で──「今年こそは笑かしたんで! コント大会」という頑張る方向がすこぶる間違っている気がするやり方ではあったものの──祝ってくれて、コンビニの冷やし白玉ぜんざいスペシャルも奢ってもらって、書くネタにも写真にも困らないはずなのだけれど。
祝ってくれた先輩たちには悪いけれど、今日のメインイベントはこれからだと思うとブログは手につかなくて、スマホは時間を確認するためだけの機械に成り下がった。