第66章 Flavor of love〔幸村精市〕
私が拍子抜けしているように見えたのか、精市は刻んだばかりの跡をパジャマの上から撫でて、意地悪く言った。
いつものことながらなぜ私が悪いみたいになるのだろうと頭の片隅で思っていると「明日に取っとくのもいいかなと思ってね、いわゆる初夜ってやつだろ?」と畳みかけられる。
一気に体温が上がったような気がして、布団と精市の腕が急に暑苦しい。
「嫌って言っても離してあげないからね」
「…それなりの覚悟はしとく」
ため息まじりにそう答えた。
そのため息に載っているのは、諦めと覚悟と、それから期待だ。
それを余すことなく理解しているだろう精市が、私に回す腕の力を少し強めた。
「そうやって、どうしても俺に繋ぎとめておきたいから結婚するんだって言ったらどうする?」
「嫌じゃないよ」
「ふふ、ありがとう」
こんなにも甘い「おやすみ」を、私は知らない。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
ジューンブライドな幸村くんを、と思っていたら、テニラビではまさしくジューンブライドイベントが始まるそうで。
やはり季節ネタはさっさと形にしておかなければ公式に先を越されてしまうし、パクリみたいになっちゃっても困るのでね…
本当は幸村がブーケを作ってくれるというストーリーにしたかったんですが、プロになっているというこのお話の設定だと無理があるだろうなと思い、泣く泣く諦めました。
式のことにももう少し触れるつもりだったんですが、話がぼやける気がして割愛。
せっかく妄想したのでここで披露しておくと、緑とお花がいっぱいの小さなゲストハウスで気心知れた友人たちだけを呼んだ小さな式とパーティーをするんだとか、夢主ちゃんはティアラじゃなくて花冠だとか、幸村くんは絶対白のタキシードじゃなくてグレーかネイビーだ、とか…
我ながら細かいなw
タイトルはまたしても使い回しです、いつかシリーズ化したいという野望は捨てていません。
そしてそして、日記にも書きましたが、おかげさまでこの短編集、めでたく二周年を迎えました。
願わくばこれからもご愛読いただけますように!