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短編集【庭球】

第66章 Flavor of love〔幸村精市〕


「…気に入るかな、なんか今更だけど心配になってきちゃった」
「大丈夫、絶対綺麗だ」


「あ、また絶対って使った」と笑いながら揶揄ってやると、精市は「目敏いな」と言って、少しの沈黙のあと「綺麗に決まってる、だったらいいだろ?」と言葉を変えた。


「なんてったって俺の花嫁さんだからね。綺麗じゃないわけがないよ」
「もう、ハードル上げすぎだし買い被りす、ぎ…、っ?」


腰に回されていた精市の手が急に布団の中をもぞもぞと動いて、私のパジャマのボタンに手をかける。
ちょっと、と結構な力を込めて静止したけれど、それは器用にかいくぐられて、すぐに肌蹴られてしまった。


「…本当は誰にも見せたくない」


聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりのところまで潜められた声が、胸元から聞こえた。
下着をつけていないそこを精市の髪と息遣いが撫でてくすぐったい。
言葉の甘さに酔いしれていると、みぞおちのあたりに一瞬、鋭い痛みが走った。

行為のときに跡を残したがるのは精市の癖だ。
これまでの経験則が、ここから先は危険だと告げている。
私にその気がないわけではないけれど、明日は早いし、鬱血痕だらけでドレスを着たくはないし、流されてはいけない。
「ね、精市」と懇願するように名前を呼ぶと、精市は「ここなら大丈夫だろ」と言って、パジャマのボタンを留め直し始めた。
ここから引き返してくれるのは珍しい。
いや、正しくは、こんなことはこれまでになかった、だ。


「明日は写真も撮るし、見える位置につけるのは可哀想かと思ってここで妥協したんだけど? それとも続き、したかった?」
「いっ、いいえ!」
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