第65章 キスとデータは使いよう〔柳蓮二〕
「俺も試したことがないから効果のほどは未知数だが、理論的には涙が止まるはずだ。それでよければやってみるか?」
「…、やる」
柳の言うことなら間違いないだろう。
なにしろ借りたハンカチはもうすっかり湿ってしまって、この調子ではハンカチがいくらあっても足りない。
柳は「わかった」と頷きながら私の瞳を覗き込んで「泣きすぎて真っ赤だな」と言った。
「よし。ならば口を閉じて、舌全体を上あごにつけるようにするんだ」
「…ん」
「苦しいか? 悪いが少し我慢してくれ」
いつもなら造作もないはずのことがひどく息苦しいのは、ひっく、と不安定な呼吸のせいだ。
柳の大きな手が、私の頭をそっと撫でた。
「目を閉じろ、すぐに終わる」
言われるがまま、まぶたをそっと落とす。
柳の「いい子だ」と小さい子をあやすような口調が、いつもより近くから聞こえた、気がした。
「……ッ?!」
唇にふわっと何かが触れたと思ったら、あたたかく濡れたものが口の中に侵入してきた。
え、うそ、柳にキスされてる──そう思ったときには、自分の舌が柳のそれに絡め取られていて。
驚きを通り越して何もできないでいると、舌先を甘噛みされて、その柔らかな痛みにはっと我に返る。
ようやく目を開けた私が力任せに柳の身体を押すのと、柳の意思によって唇が離れていったのは、どちらが先だっただろうか。
「っ、ひ、ど…!」
「止まったな」
「…え?」
「涙だ。やはり効果があったようだな」
「……、ほんと、だ」
ふ、と笑う柳は、本当に何事もなかったかのような穏やかさで、激しく動揺している自分とのコントラストに、ますます混乱する。