第64章 きみがきこえる〔手塚国光〕
めったに自虐をしない国光の台詞に、私はまた言葉を失った。
国光にそんなこと求めてるわけじゃないよと、ただ声を聞くだけでいいんだよと、なぜ咄嗟に伝えられなかったのだろう。
「すまない、もう飛行機の時間だ」と駆け足で切れてしまった電話。
通話が終わっても、そしてもう鳴らないとわかっていても、私はしばらくスマホを握りしめていた。
さっきパソコンから送ったのは、生徒会の会議の内容をまとめたメール。
夏休み直前とあって、休み中の風紀徹底を呼びかけるプリントを作るとか、登校日の算段をどうするかとか、そんなことを話し合った。
書記という役職のおかげで国光への報告は私の仕事ということになったけれど、いわゆる事務連絡は、悲しいかな私でなくともできることで。
メールを送ってから、頼まれてもいないのにスマホで「今、議事録メールしました」という報告のメッセージを送ってしまったのは、そしてつい「頑張りすぎない程度に頑張ってね」とつけ足してしまったのは、少しでも国光と繋がっていたいと願う私のエゴだ。
直線距離にして九百キロ。
私がどれだけ会いたいと叫ぼうが声は届かないし、泣こうが喚こうが状況は変わらない。
その事実がこんなにも重いなんて。
いつ帰ってこられるかわからないのなら、せめて旅立つ前に、一目でいいから会いたかった。
もちろん、予期せぬ事態にばたついて、それどころではなかったのだろう。
それに何より、「自分が率いて全国へ」と気負っていたぶん、一番大切な時期に部を離れなければいけないことに対するショックも大きかったのだと思う。
近くで見てきたからこそ、国光の気持ちは痛いほどわかっているつもりだ。
でも、だけど。
やっぱりフライトぎりぎりの時間よりも前に連絡くらいしてほしかったと思うのは、わがまますぎるだろうか。