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短編集【庭球】

第63章 たとえば君が〔白石蔵ノ介〕


「目ぇ閉じとったら見られへんやん、ちゃんと開け…」
「盛り上がっとるとこ悪いんすけど、早よ出てってもらってええっすか」
「ひッ!」


薄く笑った蔵が私をからかうようにそう言ったとき。
地を這うような冷たい声が浴びせられて、身体が硬直した。

うそ、今の見られてた?!

羞恥と焦りでどっと汗が出たのを感じながらそっと声の先に視線を遣ると、見覚えのある顔。
あれ、この人、確かテニス部の──


「…財前、少しは空気読んでや」
「よう言うわ、めっちゃ空気読んだんすけど。ここで言わんとそのままおっぱじめるとこやったやないすか」


動揺する様子もなく悠々と私から身体を離した蔵に、財前くんはじっとりと咎めるような視線を向けながらそう言った。
自分ではどうしようもなかったあの状況を止めてくれた財前くんには少し感謝さえしているけれど、でも。
知っている人に見られていたのはやっぱり恥ずかしい。
恥ずかしいものは恥ずかしい!

何も言えずに俯いていたら、財前くんがこれ見よがしなため息を吐いて「とりあえず図書室閉めるんで、出てってもらえます?」と言った。
「図書委員に言われたらしゃーないな、行こか」と蔵に促されて、足早に荷物の置いてあるテーブルへ向かった。



財前くんに頭を下げて図書室を出る。
隣を歩く蔵が「財前のやつ、ほんま毒ばっか吐くなあ」と、包帯を直しながら恨めしそうに呟いた。
「毒は蔵の方だと思うよ」という言葉は言わないでおいた。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
世の中は新緑まぶしい初夏だというのに、じめじめしている上に季節感のないお話になってしまいましたが、いかがでしたか。

ちなみにずいぶん前にも白石の毒ネタは書いていて、今回でついに毒ネタが尽きてしまったと焦っています笑
直近で書いた白石は爽やかを絵に描いたようなやつで、あれはあれで白石っぽいと思うのですが、このくらいアダルティな白石もまた白石っぽいのではないかと。
この極端な二面性が彼の魅力ですよね…って、え、違う?

ここのところリアルが忙しく、更新が停滞してしまい、すみませんでした。
その間にもファン登録やらしおりやら拍手やらいただけていて嬉しい限りです、ありがとうございます。
次はおそらく手塚で更新することになるんじゃないかと思いますので、お楽しみに!
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