第62章 Stand up, baby!〔桃城武〕
私が桃のことを好きなように、桃はテニスが大好きだから。
その大好きなテニスから振られてしまったように感じたのかもしれない。
だとすれば、今はきっと「桃は一人じゃないよ」と知らせてあげることが一番いい。
テニスの神様にもう一度振り返ってもらえるように、私も一緒に戦うから。
「そんなことないよ」
「いや、あるだろ…」
「そんなことないよ。桃がレギュラーじゃなくても、テニスやってなくても、私は桃のこと、絶対好きになってた」
私が強い口調で言い切ると、桃は驚いたのか目を見開いて、それからすぐ真っ赤になった。
テニスをしている桃は楽しそうだから好きだけれど、私は桃がレギュラーだから好きなんじゃない、桃が桃だから好きなのだと。
だからそんなに自分を卑下しないでほしいと。
そう言葉を継ぐ私に、桃は「た、タンマタンマ! 嬉しいけど恥ずかしすぎだぜ…!」なんて言いながら、走ってもいないくせにぜいぜいと上がった息を整え始めた。
こうやって私の言うことをまっすぐに受け止めてくれるところも好きだよ、と追い討ちをかけるのはやめておいた。
「それに、桃からテニスを取り除いてもさ」
「ん?」
「桃には食欲だけは残ると思うんだよね」
「あー、そうかもな」
「そしたら私が桃の専属シェフになってあげるから、安心してテニス部辞めてくればいいよ」
首や耳まで赤くなってしまった桃は見ていてかわいそうになってくるくらいで、私は心の中でごめんね、と小さく言った。
でもこれくらいの荒治療じゃないと、何日もサボってしまった部活にもう一度顔を出すのは勇気がいるでしょう?
「それも捨てがたいけど、もーちょい我慢すっかあ…」