第62章 Stand up, baby!〔桃城武〕
「ねえ、桃がいない部活ってどんな感じ?」
「……俺はあのバカがいようがいるまいが関係ねえ」
海堂は私を睨みつけるように振り返ってそう言って、教室を出ていった。
目障りなヤツがいなくなって清々する、くらいのことは言われるだろうと思っていたから、少し拍子抜けする。
吐き捨てるような口調は、怒りと失望の奥に、少しの淋しさが隠れているように聞こえた。
二人は犬猿の仲のように見えたけれど、海堂がわざわざこうやって桃の尻拭いをしてくれるのは、どこかで信頼関係のようなものがあったからなのかもしれない。
桃を捜さないと、と手早く用意をして立ち上がる。
海堂の期待を裏切るわけにはいかないもの。
いや、こんなことを言うと海堂に「ふざけんな」なんて怒られそうだけれど。
* *
──やっぱりここにいた。
川沿いの堤防の上、見慣れた自転車。
桃の部活が終わるまで待って一緒に帰るとき、遠回りになるけれど必ず通るこの土手は、私の大好きな場所だ。
桃のクラスを一応覗いたけれど、もう桃は出ていったあとだった。
そして当然というかやっぱりというか、桃の携帯に連絡をしても一切繋がらなかった。
ほかに行きそうなところといえば駅前のゲームセンターくらいしか思い浮かばなかったけれど、桃の性格上、部活をサボっているのにゲームに集中なんてできないだろうという気がして。
学校からまっすぐここに来てみたのは正解だったらしい。
自転車の近くまで行ってぐるりと見渡すと、斜面にごろりと寝転がっている桃を見つけた。
無事見つけられたことにほっとしつつ、ハンドタオルで汗を拭って、雑草の生い茂った土手をざくざくと足音を立てて進む。
近づく足音には気がついているだろうに、桃は目を開けようとしなかった。
桃の頭上に立つと、桃の顔は私の影で少し暗くなる。
「…もう、捜したよ」という私の言葉にようやくうっすらと目を開けたと思ったら、桃はすぐに真っ赤になった。